かっこいい猫の画像

最近、日本語教育に従事する方のブログを手当たり次第に漁っていた。

「落ちたと思ったのに、なぜか面接受かってた」
「420時間の途中なのに非常勤として働き始めた」
「まだ半年足らずの新人なのに、専任にならないかといわれた」
「教師が足りなすぎるのに学生がどんどん増える」

どのブログの記事を見ても、日本語業界が未曾有の売り手市場であることは明らかであった。
私は嬉しかった。
面接に落ちたなんていう記事は見当たらなかったからだ。
一週間前に受けたスカイプ面接、確実に落ちた手応えだったけれど、自分も受かっているのかな。
微かに期待してきた。
いや、かなり期待していた。
今日、連絡が来ることになっていた。
早朝、パソコンを立ち上げ、ブラウザでGメールを確認した。
メールはすでに来ていた。
つばを飲み込み、クリックした。
字が飛び込んでくる。

「残念ですが、今回は……」

反射的に『command+w』を押して、ウィンドウをそっと閉じた。

泣いた。心のなかで私は泣いた。
超売り手市場の日本語教師業界で、面接に落ちるなんて、自分くらいなんじゃないか。
自分が、どうしようもないダメ人間に思えてきた。
やるせない気持ちを紛らわせようと、隣の猫様専用椅子で微睡んでいるソラ(雌猫、3歳)のお腹の毛をモフモフした。
噛まれた。
うちの猫はセクハラに厳しい。
お腹をサワサワすると、前足ホールドによって逮捕され、噛みつき&後ろ足連打でボコボコにされるのだ。
制裁を加えて満足したソラは、ギラついた瞳で私を見ていた。
かっこいい猫の画像
「諦めたらそこで試合終了だぞ」
と言っている気がした。

そうなのだ。
私には知識も経験も足りなすぎる。
420時間を受けておらず模擬授業をしたことがない私を採用するなんて、学校側からすれば博打だ。
落ちて当たり前なのだ。
もっと貪欲に学ばなければ。
決心した私は、YouTubeで日本語授業の動画を探し求めた。
そして、ついに出会ったのだ。
最強の日本語教師と。




笈川幸司先生の講演は衝撃的だった。
こんなにも熱血な日本語教師が、この世に存在したなんて。
私はあまりにも無知すぎた。

あっという間に引き込まれた私は笈川先生の本も入手した。

 
以下は本の抜粋である。

相手が求める十倍の量をこなせば、利用されない人間になれる(8頁)
ときとき僕は、「あんた、中国人に利用されているだけだよ。気をつけな」と忠告を受ける。ただ不思議なことに、僕はこの十数年ゴミのように捨てられた覚えはない。仲のよい人からは「周囲の方々に大切にされているね」とよく言われるし、自分自身そう感じている。それで過去を振り返って分析をして出した結論は、「相手が求める十倍の量をこなせば、利用されない人間になれる」ということ。
具体的にいえば、友だちに「一万円貸してくれ」と言われて、すぐに一万円を貸す人は利用されてしまうかもしれない。しかし、「じゃ、はい」と十万円を手渡す人を、上手に利用できるほど器の大きな人間はこの世にそれほどいないということだ。

学生たちの名前を覚え、名前で呼びかける(25頁)
授業をする日は、朝四時四十分に起きた。往復四時間のスクールバスで、全教え子五二八名の顔写真と名前のついたリストの名前を隠して名前当てゲーム。半年続けてようやくマスター。「趙さん、こんにちは。林さん、郭さん、王文さん、こんにちは!」廊下ですれ違いざまに学生たちに声をかけると、みな悲鳴をあげて驚いた。

地獄の後の天国(51頁)
人は、環境がよくないと勝手に自分で思い込み、不満を持ち続けなばら生きてゆく生き物なのかもしれない。しかし、自分をさらに追い込み、耐えきれないほどひどい環境におき、しばらくしてから元に戻すとどうだろう。
一人悩むとき、僕は現状よりもひどい状況に自分を追い込む。仲間が悩んでいるとき、僕の経験談を話してから一緒に自分たちをひどい状況に追い込む。スランプのときは、最悪の状況に追い込んだ後、一気に元の状況に戻してみよう。

人との出会いで人生は変わる。実力や経験で人生が変わるわけじゃない(99頁)
人との出会いでキーとなるのは、熱意や謙虚さだ。

強引に引っ張っていく力がなければ、本気で中国人と付き合うのは難しい(116頁)
『みんなの日本語』『新日本語の基礎』『標準日本語』に出てくるセンテンスをすべて「気の利いた日本語」に直し、学生たちに教えている。
「それは何ですか?」→「あっ、可愛いですね。それ、何ですか」
「これは筆箱です」→「あっ、ありがとうございます。これ、筆箱なんですよ!」
前置きがポイントの「気の利いた日本語」に直した瞬間、それを聞いた日本人が、「おっ、この学生はひとあじもふたあじも違う。もしかしたら面白い学生かも」と興味を抱いてくれるかもしれない。

その道には、必ず先人がいて、その世界に大きな貢献を果たしてきた人たちがいる。その道を究めたいなら、その道を究めた人の話を聞く(129頁)。

僕は授業中ほとんど話をしない(140頁)。
授業以外の時間を大切にした。

どんな学生に対しても最初からやさしく接していこう(151頁)。

握手授業(157頁)※握手しながら話すペアワーク
握手しながら相手と話をすると、周りの雑音が聞こえなくなる。
毎回学生たちにこんな指示を出す。「今日は異性としか握手してはいけません!」と。学生たちは一斉に、「えー!」と驚いたり困ったりするが、僕は彼らの心のうちを知っている。男子学生なら女子学生と握手をしながら日本語を勉強したいはずだ。上手になれば、女子学生たちが尊敬のまなざしを向けてくれる。だから予習もかかさない。僕の授業を休む男子学生はまずいなかった。
ある学生が僕に教えてくれた。「先生のおかげで彼女をつくることができました。僕たちは今年結婚します。こんなチャンスを与えてくれた先生にありがとうと言いたいです。本当にありがとうございました!」
その授業では、遅刻する学生がほとんどいなかった。僕が教室に入っていくと、みんな隣同士仲良くおしゃべりをしていたし、授業が終わってすぐに帰る人がほとんどいなかった。いつまでもいつまでも笑い声の絶えないおしゃべりが続いていた。
こうして僕は自分の生き方を見つけた

熱い日本語教師に、私もなりたい。

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